つい先ごろ、かの有名なオペラ歌手、ヘルマン・プライが主演する『セビリアの理髪師』のオペラ映画を観ました。

時代設定も、最近のオペラとは違って、ちゃんと原作通り、コスチュームも髪型も街並みも原作に忠実に再現されていました。

最近のオペラは、どうも時代設定を現代に置き換えた演出ものが多く、しっくりこないのです。

演出に無理があると言いますか、勿論好みの問題もあるのでしょうけれど。

『セビリアの理髪師』ですが、当代きっての歌手たちが出演

]歌唱力は勿論、演技力も皆素晴らしい!

例えば、ロジーナ役のテレサ・ベルガンザは、顔色一つ変えずに音階のような上り下りを完ぺきにこなし、低音から超高音まで揺るがない美声で歌い上げていました。

フィガロを演じるヘルマン・プライも早口言葉のような歌詞もはっきり正確に音にのせて歌い上げており、「よく歌いながらこんなに口が回るな。」と感心しました。

その他の主要な役どころの歌い手さんたちも兎に角歌が素晴らしい。

オペラ歌手なんだから歌が上手くて当然じゃないかと思われるかもしれませんが、彼らは本当に上手なのです。

一流とはこのことをいうのかと改めて考えさせられたほどです。

ヘルマン・プライの時代の歌い手が最高峰な理由

彼らの歌が本当の意味で上手いと思うことの一つには、スピードのある音楽に合わせて歌えるということがあります。

最近の歌い手さんは、「テンポを速くして歌ったら、しっかり声が客席に届かない。」といった理由で、指揮者と交渉してテンポを落としてもらうことがあるそうです。

しかしそれは歌唱力のなさを露呈しているようなもので、果たしてそれを一流と言えるのかどうか疑問ではあります。

そうした現代のオペラ歌手の歌い方に比べるとテンポが速いと思われがちなのですが、ヘルマン・プライの時代の歌手は、決して元のテンポからかけ離れた速さで歌っているわけではないのです。

むしろその曲のテンポを忠実に守って演奏していることの方が多いぐらいです。

こうしたことと合わせて、更に、ヘルマンたちの、歌いながら演技をする余裕があるところに歌い手の確かな歌唱技術を感じます。

最近のオペラ歌手は、仁王立ちで必死に歌っていますという感じですが、ヘルマンたちは、歌いながら常に動き回っています。

動いていなくても、顔で表現したり、演技しています。

CDの録音なら仁王立ちで必死な形相で歌うのもありかとは思いますが、舞台ではいかがなものでしょうか。

オペラは舞台芸術です。
舞台に一度上がってしまったら、役を演じ切らなくてはいけません。
たとえそれが難しいパッセージの最中でも。

確かに、オペラは難しいです。
そのオペラに出てくるアリアを一つ歌い上げることも大変なことなのです。

ですので、歌うことに集中して、歌だけになってしまうのも分からないではないです。

しかし、ただ歌うことならアマチュアにもできます。

美しくアリアを歌い上げることにプラスして、そこに演技をする余裕がある歌手こそ、超一流の歌手であるといえるのでないでしょうか。

ヘルマン・プライや、F・ディスカウ、キリ・テ・カナワなど、いわゆるベルカント唱法が歌の技術の頂点に君臨していた時代に訓練を受けた歌手たちには、確かな演技力と最高の歌唱技術が備わっていると思います。

こうした歌手たちが一堂に会することはもはやないでしょう。

今後こういった最高峰の技術を持った歌い手が出てくることを楽しみにしつつ、それまでは、もはや生では聴くことの出来ないヘルマン・プライたちの歌声に耳を傾けながら音楽を楽しんでいこうと思います。